2.土地信託方式
土地信託は、土地所有者と信託銀行との土地活用共同事業システムです。
信託銀行は、土地所有者から土地の信託を受けて、土地所有権の移転を受けます。その土地に建物を建設して、賃貸し、受け取った家賃を(元の)土地所有者に信託配当として交付します。信託期間終了後に、土地は建物付きで(元の)土地所有者に返還されます。
(1) 土地信託のしくみ
土地信託方式は、次のような手順で行われます。
@土地所有者は信託契約の締結により、土地を信託銀行に信託します。この時に土地の所有権が信託銀行に移転します。
A土地所有者は、土地の所有権の代わりに信託受益権を取得し、受益権証書の交付を受けて受益者となります。
B信託銀行は、建設会社に工事の発注をして、建物の引渡しを受けます。
C信託銀行は、金融機関から借入れを行い、建設代金の支払いをします。
D信託銀行は、テナントを募集して、建物の賃貸事業を行い、賃料の支払いを受けます。
E受け取った賃料を、元利金の返済と諸経費の支払いに充て、信託手数料を差し引いた事業利益を(元の)土地所有者に信託配当として交付します。
F信託期間(20〜30年程度)終了後に、信託財産である土地は建物と共に(元の)土地所有者に返還されます。
(2)土地信託のメリットとデメリット
土地信託には次のような<メリット>があります。
■土地が必ず戻ってきます。
信託期間終了後に、土地は建物付きで戻ってきます。土地の売却や借地権の設定をしないで有効利用が図れます。
■信託銀行が資金を調達するので、自分で借入金を起こす必要がありません。
■事業計画の企画立案、建物の建設、テナントの募集から管理まで、一切の業務を信託銀行に任せられます。
■土地所有者が希望する場合には、信託銀行に対し、委託者として自分の意向を反映させて土地活用事業を行うこともできます。
■ノウハウなしで実質的に賃貸事業を行い、土地と建物が返還された後に自分で事業を行うこともできます。
■信託期間中に資金が必要になった場合、信託受益権を売却したり、借入金の担保にすることもできます。
一方土地信託には、次のような<デメリット>もあります。
■事業受託方式や建設協力金方式と違って収益が保証されません。土地信託の場合は法律的に収益保証ができないことになっています。
■信託銀行の信託手数料が差し引かれるので、信託配当はそれほど高くないかもしれません。
■土地は立地条件がよく、まとまった広さがないと利用するのは難しいでしょう。
(3)土地信託方式の税法上の取扱い
土地信託では、土地の所有権が土地所有者から信託銀行に移転し、信託銀行の名義で土地活用事業が行われます。しかし、これは形式的移転に過ぎませんので、税法上は土地所有者(受益者)が自ら事業を行う場合とほぼ同様の取扱いを受けます。
●信託の設定・終了時
土地の譲渡による所得税、所得権移転登記による登録免許税、不動産取得税はかかりません。
ただし、信託登記の登録免許税はかかります。
●信託の運用中
土地所有者が受け取るのは信託配当です。しかし、税務上は、土地所有者が賃料収入を受け取って諸経費を支払ったものとして、不動産所得があったことになります。この不動産所得には、もちろん所得税が課税されます。
●信託中の相続
信託財産である土地と建物が相続財産となって相続税がかかります。信託銀行が起こした借入金は、相続財産から差し引くことができます。
●受益権の譲渡
信託受益権を譲渡する場合は、不動産を譲渡するのと同様に、譲渡所得として所得税が課税されます。
(4)相続対策としての効果
土地信託では、土地の所有権が地主から信託銀行に移転し、信託銀行の名義で土地活用事業が行われます。
しかし、これは形式的移転ですので、税務上の取扱いは、自分で事業を行う場合とほぼ同じものになります。
相続財産の評価にあたって、信託財産である土地・建物は、自己所有の財産と同様に評価されます。
したがって、土地信託には、次のような評価額の引下げの効果があります。
▼建物は貸家として借地権の価額三〇%を差し引くことができます。
▼土地は貸家建付地として評価減することができます。
▼さらに小規模宅地の評価減として、二〇〇平方メートルまでについては五〇%減額できます。
▼建物を建設するための借入金は、相続税の課税価格の計算上、債務控除として相続財産から差し引くことができます。
なお、相続開始前三年以内に取得した土地建物が取得価額で評価されるのは、土地信託の場合も同様です。
3.事業受託方式
事業受託方式とは、土地所有者とディベロッパーとの土地活用共同事業システムです。
事業受託方式では、土地所有者の依頼により、ディベロッパーが事業計画の立案、建物の設計と建設、完成後の建物の管理と運営などを一括して引き受けます。
土地所有者は金融機関から借入れをして建設代金の支払いに充て、建物は土地所有者の名義になります。そして、その建物をディベロッパーが一括して借り上げます。
(1)事業受託方式のしくみ
事業受託方式は、次のような手順で行われます。
@土地所有者が、ディベロッパーに土地活用計画の立案を依頼します。
Aディベロッパーは、土地の調査、市場調査を行い、土地所有者の希望も受け入れて、計画を作成し、提案します。
B両者が合意すると、建設請負契約、完成後の建物の一括借上げ契約を結びます。
C土地所有者は、金融機関から建設に必要な資金の借入れを行います。普通、ディベロッパーは提携している金融機関の斡旋や融資条件の便宜を図ってくれます。そしてその資金を建設代金の支払いに充てます。
D竣工検査が終了した後、土地所有者は、建物の引渡しを受けて、自己の名義にします。
Eディベロッパーは、その建物を一括して借り受けます。
そしてテナントを募集し、貸付けを行って、賃料を受け取ります。
F土地所有者は、ディベロッパーから一括資料を受け取って、元利金の返済や諸経費の支払いをします。
(2)事業受託方式のメリットとデメリット
事業受託方式には次のような<メリット>があります。
■等価交換のように土地を手放すことなく、有効活用をすることができます。
■建物は土地所有者の名義で事業が行われます。
■一連の業務をディベロッパーが行うので、手間がかからないし、ノウハウも必要としません。
■ディベロッパーが建物を一括して借り受けて収益を保証するので、空室のリスクがありません。
一方、事業受託方式には、次のような<デメリット>
があることに注意しておく必要があります。
■ディベロッパーが転貸するため、土地所有者の収益性が低くなります。これは収益が保証されていることのコストであると思ってください。
■契約期間が終了すると、建物は土地所有者に返還されることになります。契約の延長等もありますが、収益がいつまで保証されるかが問題になります。
■ディベロッパーが収益を保証するためには、かなり条件のよい土地しか利用できないでしょう。
(3)全額敷金方式もある
事業受託方式の一形態として、全額敷金方式があります。
これは土地所有者が金融機関からお金を借りるかわりに、ディベロッパーが建物を一括して借りる際に受け取る敷金を建設代金に充てる方式です。
この方式によれば、土地所有者は金融機関から借入れがなくなるので、事業のリスクがかなり少なくなります。
また、元利金の返済がないので、事業収支がラクになります。
(4)相続対策としての効果
事業受託方式では土地信託と同様に、
次のような評価額の引下げの効果があります。
●建物は貸家として借家権の価額30%を差し引くことができます。
●土地は貸家建付地として評価減することができます。
●さらに、小規模宅地の評価減として、200平方メートルまでについては50%減額できます。
●建物を建設するための借入金は、相続税の課税価格の計算上、債務控除として相続財産から差し引くことができます。
また、相続開始前3年以内に取得した土地建物が取得価額で評価されるのは、事業受託方式の場合も同様です。
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